日本国において,極刑廃止の意見は極めてわずかです。これは,政治的な立ち位置にかかわるものでなく,国民性とでも言うべきでしょう。
世界各国の状況はどうでしょうか?キリスト教国に分類される国では,おおむね極刑が廃止されているようです。バチカンでは,EUからの圧力を受け,極刑容認論を撤回しつつあるようです。
イスラエルでは,事実上極刑が廃止されています。
逆に,世界最大にして最強のキリスト教国であるアメリカ合衆国は,州法による差異があるものの,極刑存置国に分類されます。
アメリカ合衆国における極刑は,緩い銃規制と政策的関連があるという見方が根強く,また,テロ対策としての側面も有しているようです。
東アジアでは,日本国や中華人民共和国といった宗教を有しない国家があり,いずれも極刑存置国です。
極刑存置の政策的背景としては,アメリカ合衆国などの治安状況が劣悪な国家では一般予防(社会の構成員への警告)として,逆に日本国や中華人民共和国などの治安状況が良好な国家においてはそれ以外の効果を期待しているようです。
すなわち,一般予防が尽くされた後になお残る凶悪犯罪への対応として,司法による判断を確実に実施し,行政および司法の信頼性を担保するプロセスであると考えるべきでしょう。
ただし,東アジアの極刑存置国には,中華人民共和国や朝鮮民主主義人民共和国のように,政治犯に対して極刑を執行する国家も含まれることには注意が必要で,これらの国家では,民主的なプロセスと非民主的なプロセスが併存しています。
これには,権威強化のための極刑存置の側面もあるといえます。
いずれにせよ,アメリカ合衆国を除外すれば,同程度の経済状況にある極刑存置国と極刑廃止国における治安状況を比較すると,例外なく前者の治安状況が良好であることは疑いありません。
アメリカ合衆国の特異な状況は,緩い銃規制や社会保障制度など様々な原因が主張されているものの,おおむねどの見解も正しいと考えられます。
日本国において極刑が執行された場合には,欧州各国やEUなどが反対のプレスリリースを発表することが通例で,これに対して一部の国民が「欧米では司法を経由せず犯罪者を処刑している」といった非難を提示することがあります。
この種の非難は一理あると言わざるを得ないもので,実際,欧米諸国,とくに移民問題を抱える地域においては,警官の判断のみに依存して犯罪の嫌疑(犯罪に関与した事実がなくとも)をかけられた者を,非民主的なプロセスで事実上極刑に処している現実があります。
上記のような事情に鑑みれば,およそ極刑廃止論の類は,その源である国家の状況を軽視していると断ずるほかないでしょう。